「青山くん!」
呼び止められた僕にかつて世界を救った大英雄は、学生時代と変わらぬお人好しな顔で「あ、間違った! ごめんね 『Can’t stop twinkling.(キラキラが止められないよ☆)』!」と言って大袈裟に頭を下げた。彼の幼馴染が主導で緑谷くんのパワードスーツを作る事を決めてから、幾年経っただろう。完成は誰しも思っていたより早かった。いや、彼だけは「早く早く」と焦っていたと思う。彼こと爆豪勝己の、緑谷出久に対する思いの強さはわかっていたはずだったけど、目の前に復帰した『ヒーローデク』を見る度にその執着を感じざるを得なかった。
「スーツの調子はどうだい?」
「バッチリだよ! あ、これ見て、青山くんの個性のレーザーも搭載されてるんだ!」
「ネビルレーザーは使い勝手がいいでしょ⭐︎」
「本当に! 汎用性高い個性だよね」
「お腹を壊さないのが少し羨ましいけどネ!」
オール・フォー・ワンに個性をもらい、あの当時ヴィランに加担していた僕が今、ヒーローとして活躍できているのは一生の友をあの学舎で得たからだ。それでも、目の前の君は「頑張ったね、青山くん」と一切の悪意無く言うんだ。いっそその純粋さに、眩しさに、僕が恥ずかしくなってしまうほどに。同じ無個性に生まれ、それでもヒーローを目指した僕達がこうやって笑い合う未来を、一人ぼっちだった幼い僕達は信じてくれるだろうか。
「……みんなのおかげだよ」
あの全面戦争以降、ずいぶん大人びて笑うようになってしまったと僕は思った。オール・フォー・ワンと両親、A組、無個性の君。全てを知って絶望した僕に、あの時手を差し伸べてくれた緑谷出久は、僕にとって誰よりもヒーローだったんだ。ねえ、爆豪くん。緑谷くんが『無個性』に戻った時の君の絶望を知っているよ。それと同時に緑谷くんが諦めた気持ちだってわかるんだ。だって僕は『元無個性』なんだから。
「ねえ、緑谷くん」
「ん?」
「サプライズは嬉しいだろう?」
僕がそう言えば、緑谷くんはポカンと口を開けた後にまるで学生時代のように顔いっぱい笑うと「嬉しい」と言った。彼の幼馴染が、いや、みんなが待っていたヒーローの帰還だった。