shoji

 俺が暴走するダークシャドウと常闇から身を隠す中、飛び込んできたのはボロボロになってなお足を動かすクラスメイトの緑谷出久だった。緑谷は生まれつき異形の個性持ちとして生まれた俺とは違い、その個性の発現が遅く随分長く『無個性』として生きてきたらしい。
 個性を持って生まれる人間が人口のほとんどである超常社会において、無個性はいろんな意味で生き辛い。ヴィランから身を守る術が無いのはもちろん、周りと違うというのはいつの世も排除の対象だ。しかし、考えたことがある。無個性はそのまま見た目ではわからないのだから、無個性だと言わなければいいのだと。もし、俺の個性を消してくれるような存在がいて、無個性として生きられたなら俺の人生も変わっていたのだろうかと。

 ヴィランの狙いが爆豪であることを知った緑谷は、爆豪を一刻も早く救けに行きたいのだろう。俺は、目の前で暴走してしまったダークシャドウの原因が自分である事を重々わかっていて、常闇の辛さが手に取るようにわかる。だからどうしても救けたかった。お互いに友を救けたいのだ。

「お前は、どっちを救ける」

 俺は緑谷に選択を委ねた。すると緑谷は「どっちも」救けるのだと言う。俺は緑谷出久の精神がひどく脆く、同時に眩しく感じた。俺も同じでありたい。あの時川原で溺れたあの子に、咄嗟に手を伸ばした俺を肯定してやりたかった。『無個性』とか『異形』とか、そんなちっぽけな括りでヒーローの素質は語られない。そこにあるのはただ、どう行動するかなのだと。俺は背中に感じる緑谷の、怪我と興奮で熱を持った身体を落とさないようにさらに包み込む。

「僕に考えがある」

 そう言って緑谷は薄く笑う。不敵な笑みはいつもの穏やかな緑谷とは印象が異なっていたが、俺は何故かそれを見て爆豪を思い出していた。思えば入学以来、体育祭や戦闘訓練の時からそうだったんだ。緑谷も爆豪も、ピンチの時こそ何故か笑っている。いつもは正反対の二人が重なる瞬間はここなのかもしれない、と俺はすでにこのピンチをピンチとも思えない安心感を得ていた。
 背中から聞こえる息遣いから、緑谷の状態が良くないことはわかっている。ただ、まるで「大丈夫だ」と、「僕が来た」と言わんばかりに笑って傍に居てくれるのがこんなにも心強いのだ。俺は自分で思っていた以上に、この状況に焦っていたのだろう。両方救けたいと言った緑谷の腕が怪我で伸ばせなくても、俺がその手を爆豪と常闇に伸ばすよ。そのための複製腕だ。
 緑谷が必死に走る俺の背中から「かっちゃん!」と大きな声をあげる。俺には暗闇にしか見えない林の向こうに、さらにもう一度爆豪の名前を呼ぶ。もはやまぶたも半分しか開いていない目で、彼の幼馴染の姿をとらえたのだろう。俺はその縋るような声を聞いて、目の前のヒーローに救けを求めたのは緑谷だったのかもしれないと思ったんだ。

 
 

 

障子目蔵は仮定する