mineta

※アニメ3期1話のオリジナル回前提

 

「上鳴〜本当にこっちで合ってんのかぁ?」

 午前中に近くの駅に着いたとはいえ、太陽も高くなってきた真夏の日差しはオイラのイカした髪型を溶かすようだった。入道雲は近いのか遠いのかわからないほど大きく、青と白のコントラストに目が焼かれそうだ。
 ヴィラン襲撃事件以降無闇に出歩くことを許可されていない夏休みが退屈だとして、女子たちが学校のプールに集まることを『偶然』知ったオイラは『偶然』同じ日にプールで体力作りをすることにしたわけだ。上鳴と一緒に計画し、オイラと上鳴二人では許可が下りないと踏んだため事前に緑谷を巻き込んでおいた。もちろん緑谷には何一つ言っていない。でもまあ、緑谷は雄英近くに住んでいたはずだしどうにかなるだろうというオイラたちの見立てだ。
 以前爆豪の家に行ったことがあると言う上鳴が、大体の緑谷家がわかるからと駅から道案内を頼んでいた。しかし、同じような集合住宅が並んでいるエリアに来るとフェンスの近くで案の定迷う羽目になったんだ。

「爆豪の家があっちだろ……そこから空き地超えて、タバコの自販機の角を右折……」
「あーもう爆豪ん家先行って教えてもらおうぜ!」
「えー……怒られそう」
「あっちぃんだよ! もうオイラの玉は上も下も溶けそうなんだよ!」

 オイラの必死の形相に一歩引いた上鳴は、爆豪の家に行くのは流石になあ、と言って携帯電話で電話をかけ始めた。

「……あっもしもし爆豪? 今家? 夏休み満喫してるぅ〜? あ、ごめんごめん! 切るのやめてぇ」

 上鳴がオイラでも「ウゼェな」っていうテンションで爆豪に電話を始めると、早々に切られそうになって危うく本末転倒となるところだった。上鳴は「本題」と言って緑谷の家がどの辺か聞き出していた。「空き地」「タバコの自販機」と単語がちょこちょこ聞こえてきたかと思うと急に上鳴の「ええー!!!」という絶叫が住宅街に響き渡った。なんだなんだ、何があった。

「マジかよ……」
「爆豪なんつってたんだよ」
「……左折だったみたい」

 上鳴が今時流行らない「てへ」というウィンクと「ぺろ」と舌を出すぶりっ子ポーズで謝ってきたから、オイラは上鳴の脛近くに鞄を投げつけた。右折してから大分歩かされたオイラたちは、タバコの自販機までこれから戻って反対方向に行くってこった。

「わーるかったって! その代わりカッチャンから近道聞いたから!」
「近道ぃ?」
「そ、緑谷住んでる団地までのショートカット」

 爆豪から聞いたと言う団地までの近道をオイラと上鳴は進んで行った。タバコの自販機から程なくして流れの少ない小川沿いのフェンスの一箇所、外れかかっている金網を越えて行くコースだ。オイラはまるで獣道のような草むらを分け入り、緑が生い茂る川沿いの道を進むのを、初めて通るはずなのに懐かしい気持ちになっちまった。オイラも小学生の頃はこういう「抜け道」を探すのが好きだったっけな。緑谷と爆豪は、この道を何度行き来したんだろう。そしてそれは、いつからしなくなってしまったんだろうか。「かっちゃん」「デク」と時が止まったように呼び合う二人が、いつもは幼馴染の顔をせず雄英の教室にいるのをオイラたちは見ていたから、不意に「本当にあいつら幼馴染なんだ」と突きつけられたようで胸のあたりがむず痒い。
 金網の向こうには緑谷が住んでいるだろう団地が顔を出す。オイラは拓けた視界に目を瞬いた。さっきまで視界は生い茂る緑の葉でいっぱいだったはずなのに、フェンスの先から急に顔を出す入道雲と青空を背負ったグレーの立方体は、確かに幼い爆豪が見た夏の景色だったのだろう。

 

 

峰田実は想像する