同じ世代のヒーローに顔を売っておくというのが、雄英のサポート科に入った一つの理由でもある。
幼い頃から個性『ズーム』の有無に関わらず、どんな物でもまず分解して仕組みを理解したがる子だったと両親から聞いていた。目覚まし時計が時間通りに音が鳴る仕組みは? 自動車がアクセルを踏むと進むのは何故? 疑問が湧く度に解明したくてたまらなくなる。泳ぎ続けなければ死んでしまう回遊魚のように、私は自分の「なぜ?」を突き詰めたくてたまらなかった。
個性が発現すると、自分だけでなく周りの人物が個性の有無で出来ることがあったり、無かったりするのが気になった。個性を私的に利用しないよう、制限をかけられる現代において、ヒーローと呼ばれ唯一『個性』を利用して仕事をする職業に興味が湧いた。個性がその人の一生を決めるなんて馬鹿なこと言わないで欲しい、その個性をサポートできるのは人間の「頭」で考えられた発明品だと信じていた。
ヒーロー科でもサポートアイテムを必要とする人とそうでない人がいる。体育祭で縁が出来た『緑谷出久』と言う人物は前者だった。自らの個性で肉体に負荷がかかり、自壊するほどの超パワーを全く使いこなせていなかった。私は彼がヒーロー科に入れたことも驚いたが、何故もっと早くサポートアイテムに頼らなかったのか――と疑問も湧いた。私なら彼のサポートするアイテムを一日で百通りは考えられる。何度か彼のサポートアイテムを作り、その度に緑谷くんは自らの個性をパワーアップさせてきた。私が前に作ったアイテムを、さらに改良して欲しいと言って無理難題を言いつける。私はサポートアイテムを作ることは、使う人と共に自分も成長していく必要があるのだ、と緑谷くんのアイテム利用を側で見ながら教えられたのだ。
緑谷くんは将来、私の最高の顧客になるに違いない。そう思っていた。
緑谷くんに、プロヒーローにはならないと高校三年の時に告げられた。
ヒーロー科だけでなく、サポート科も経営科も一丸となって戦ったあの未曾有の大戦で彼はヴィランに打ち勝ち、個性を失った。これからは教師を目指し受験勉強に励むから、ヒーロー科の授業は減らしていくという。律儀に「今までありがとう」と言いにラボまで来てくれた緑谷くんに、私は「そうですか」と一度彼を振り返るとすぐに作業に戻った。寂しそうにラボの扉が閉まる音がして、私は椅子の上であぐらをかいていた左膝を叩いて苛立ちを発散した。彼のサポートアイテムなら、私はあと数百通りは考えついていたのだ。
「発目、お客さんだぞ」
高校卒業後は大手サポートアイテム会社で経験を積み、そろそろ独立しようかと考えていた頃だ。私を訪ねる一人の人物が居た。それは、在学中はとんと接点の無かった大・爆・殺・神ダイナマイトだった。確か彼の本名は――
「カッチャン」
「誰がカッチャンだ」
「爆豪くん」
緑谷くんが「かっちゃん」と呼ぶ声が耳に残っていて、何故かそう呼んでしまったところ随分早いレスポンスで不機嫌を露わにされた。私は訂正して名を呼べば舌打ち一つこぼして爆豪くんは数枚の紙を私に手渡した。それは明らかにヒーローコスチューム、しかもパワードスーツの設計書だった。
「これは……」
「パワードスーツの設計書。一緒に考えてもらいたくて今日は来た」
数枚に渡る設計書案を、あまり使わない個性を使用して隅々まで見る。それらを一目見ただけで私は、誰のためのスーツかわかってしまった。
「高校ん時から、デクのスーツを見てきた発目にも協力してもらいてェ」
頼む、と目の前の爆豪くんが私に頭を下げる。その姿を見て、ラボの中で思い思いに作業をしていた数名の研究者が息を呑んだ。メディアを通して見る大・爆・殺・神ダイナマイトのその態度や言動とは結びつかない姿に、緑谷くんへの並々ならぬ感情を垣間見る。緑谷くんがヒーローになるのを、諦めていない人が居た。私はずっと待っていたのかもしれない。あの頃から既に数千を越えた私のアイデアがようやく日の目を見るようで、私は嬉しくなって爆豪くんに「もちろん」と言ってさらに続けた。
「だって彼は、私にとって最高の顧客ですよ」