デクVSA組前のかっちゃんと飯田くん(時々轟くん)の一コマ小話
勝→デ前提
「OFAの残りの継承者の能力がどの程度のものかわからない以上、これが最善の策だと思われます」
八百万が作戦をまとめたホワイトボードの前で、それぞれ頷き最後の作戦会議は終了した。クラス全員の個性を駆使した作戦は、それぞれがデクに言葉をかける合間があった。皆それぞれデクに言いたいことがあるんだ、と譲らなかった。
デクを雄英に連れ戻す――口では簡単に言っても未知の能力を発現させているデクには、A組全員でかかっても敵わないかもしれない。ましてや浮遊や黒鞭を駆使されて空中に逃げられれば、空中移動手段の無い者は軒並み使い物にならないのだ。
それでも、全員を作戦に据える。誰一人欠けてはならないと変な一致団結を見せていた。
こいつらにはわからないだろう、俺がどれだけ悔しかったのか。俺は「知ってた側」だったんだ。それをてめェらと同じく手紙一つで切り捨てられたんだって。
『デクのこと……わかってねェんだ』
わかってねえのは、俺もだと認めるわけにはいかなかった。
作戦会議を終えた寮の共有スペースは、それぞれの部屋に戻るメンツが一人、また一人と消えていく。俺は最後に飯田を打ち上げる流れを再度確認しておくため、部屋に戻る轟と飯田を呼び止めた。
「当日の天気次第だが、俺の上半身がまだ本調子じゃねえ」
「それはそうだろう! あの怪我でその後も暴れ回っていたのだから」
「予報だと当分雨みてえだな」
轟の膨冷熱波と俺のクラスターで飛ばす飯田が、歴代継承者の個性持ちのデクに追いつけなきゃ意味がねえ。クラスターを最大限で撃てるとは限らない俺は、場合によっては想定より早く飯田を切り離すよう提案した。
「それは構わないが、俺からもいいだろうか」
「どうした」
「最後に緑谷くんをつかまえる役割は君が適任なのではないか? 緑谷くんの幼馴染で、彼のことを一番よくわかっている君が」
飯田はいつものクソ真面目な顔をして、癖になっているのだろうズリ落ちてないはずの眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。俺はいつも必要以上に大声で、言動からして自信に満ちている目の前の男との出会いを思い出していた。私立のお坊ちゃん中学出身のいけ好かねえ奴。デクなんかに一目置いてる変な奴。
それでも、一度は軽んじたデクに対して「君を見誤っていた」と言い切れる「強さ」のある奴。
神野の時も俺を救けに来るっつう大馬鹿をやらかすデクを見ていてくれていた、あいつの一番の「友だち」だ。俺が手放した、遠ざけた、あいつの友だち。
『デクは、イカれてンだよ頭』
イカれてるあいつの「自己犠牲」の精神を、俺は理解できなくて遠ざけた。話し合いすら拒み、徹底的に排除しようとした。俺が取れなかったあの「手」を、今更握るなんて許されるのだろうか。
いつもは大きく見える飯田の肩が、自信が無いのか小さく見えた俺はその肩を拳で軽く叩いた。
あいつが普通の「高校生」に戻るには「友だち」が必要なんだ。一人で勝とうとしてる、スーパーヒーローにならせてたまるかよ。
「デクは今、迷子なんだよ」
俺がそう言うと横で轟も便乗して「しっかりしてくれよ、委員長」と言ってきた。飯田は「ああ、そうだな」と俺に叩かれた肩を摩ると、いつもの鳩胸の如く胸を張ってもう一度「そうだな」と言った。力強いその声に、もう迷いなど無かった。
「緑谷くんだけじゃない、みんなを導くんだ俺は」
その中に「君」も入ってるんだぞ、と飯田は俺に向けて手刀を下ろした。俺は当たらないように大袈裟に避けると「わかっとるわァ!」と肩を怒らせてその場を去った。後ろの方で轟が「ずりぃ、俺も」と気の抜けたことを強請り、飯田も「もちろんだ!」といつもの大声で答えているのを聞きながら俺は無意識に口角を上げていた。俺には出来なかったデクの「友だち」という存在は、デクを頭のイカれた一人よがり野郎にはしねェ。
疼く肩の痛みも不思議に心地良く、俺の心は凪いでいた。それは、あの時言えなかった言葉の続きをあいつに言える日が近づいていたからに他なかった。
アンダンテに追いついて